本を読むことが大好きだ。特に小説はどれだけ読んだかわからない。
小説の中でも、好んで読んでいるのが歴史小説。
なかでも、司馬遼太郎が大好き。「竜馬がゆく」、「燃えよ剣」など何度も読みふけった。
家の本棚には司馬遼太郎コーナーがあるほど。
じゃあ、どの本がオススメですか?と聞かれたら、僕はいつも答える。
『俄』だと。
この本は、一人の人生を追った物語だけではない。そこには、「人生のミッションの見つけかた」が記されているのだ。
『俄-浪華遊侠伝-』 司馬遼太郎が描く、人生のミッションの見つけかた
この本との出会い
それは2008年だった。
ぼくは30歳を超えて、ちょうど何を目指して生きていけば良いかわからなくなってしまった時期だった。
「未来を想像して現在を逆算すれば、今やるべきことが見えてくる」という考えに凝り固まっていて、未来のことばっかりを考えていたために、「今」がまったく楽しくなくなってしまった。
ぼくは、『目標に振り回されるだけで、今を生きられないのは嫌だ!』とずっともがいていて、そこから浮かび上がることができないんじゃないかと思うくらい、人生が灰色だった。
そんな問いに、この本は答えてくれた。ある人物の生涯を通して。
人生は目標がすべて、という考え方へのアンチテーゼだった。
主人公、明石家万吉の生涯
この小説では、幕末の極道(やくざ)である明石家万吉の生涯が描かれている。
江戸末期から大正時代が舞台だ。
万吉は非常に貧しい境遇のため、小学生くらいの年齢で裏稼業に生きることを決める。
お金を稼ぐため、違法な賭場に踏み入っては種銭をふところに入れる。
当然、激しく殴られるわけだが、それをじっと我慢して相手が殴り疲れるまで待つ。自称「どつかれ屋」だ。
半殺しの目にあってもケロリとして、それをどんどん繰り返していくことで一目置かれるようになる。
15歳で家を買ってしまうほど成り上がってしまう。
そこから、どんどんスケールの大きい依頼やトラブルがやってきて、それを全力でこなしているうちに、関西で最も有名なやくざとなっていく。
依頼を受けて米相場に殴り込みをかけて潰す。25歳で3,000人の子分を抱える。
とある藩から頼まれてやくざから武士になり、市中警護を任される・・・。
このあたりは痛快だ。こんな人物が実在することに驚く。
いろんなことに私財を投げうち、あれやこれやと首を突っ込んでいく。
最後の方は、私財で消防団を編成し、大阪の街を守っていくのです。
プロセスの中で、人生のミッションを「発見」する
とても印象に残っているのは、明石家万吉が悩むところです。
『自分は、いったい何をやっているんだろうか?何度も痛い目にあって、死にかけて、お金もどんどんなくしてまで、なんでこんなことをやっているんだろう?』
当然の疑問ですよね。
そしてふと、気付いてしまうのです。
『そうか、おれは天下のためになる、街の人たちのためになることをやっとったんや・・・!』
自分のやってきたことを振り返ってみたときに、やった行為は支離滅裂でも、そこに意義を見出していくのです。
スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチでも、同じことが語られています。
you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backward. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.
未来に先回りして点と点をつなげることはできない。君たちにできるのは過去を振り返ってつなげることだけなんだ。だから点と点がいつか何らかのかたちでつながると信じなければならない。自分の根性、運命、人生、カルマ、何でもいいから、とにかく信じるのです。歩む道のどこかで点と点がつながると信じれば、自信を持って思うままに生きることができます。たとえ人と違う道を歩んでも、信じることが全てを変えてくれるのです。
スティーブ・ジョブズが気づいたことを、明石家万吉は明治時代に同じことを気づいたことになりますね。
人生のミッションの見つけかた
彼が辿ってきた道を整理してみると、ミッションの見つけかたが見えてきます。
目の前に来た課題を全力でクリアしていく → 自分が少しずつ大きくなる → すこし大きな課題が現れる → 全力でクリアする → 自分が大きくなる → 自分の強みが見えてくる → ミッションを発見する
このサイクルに入るためには、『立ち止まって考えない。走り続けていれば必ず何かが見えてくる』という信念を持つことも必要です。
まとめ
自分の設定したゴールから逆算し、今何をすべきか考える。
それとは対極の考え方ですね。
どれが正解かはわからないけれど、その当時の、そして今の僕には明石家万吉の生き方に共感します。
この本を読み終わった時、心の中の雲がすっと晴れた気分でした。
幕末の極道にも、学ぶことがあるんですね。
それを気づかせてくれた司馬遼太郎にも感謝です!
この小説は、1972年に刊行されています。文庫本にして約800ページ。
純粋な読み物としても、おすすめですよ!